【コラム】子供にデジタル画材は必要か。アナログ画材、デジタル画材を与えてみたところ。
こんにちは。本を出して燃え尽き状態だったモソです。
引き続き、ラッキーキャッツの続きに着手しています。
さて、本日の話題はタイトルのとおり、子供にデジタル画材を買い与えるべきか否かということについてです。
漫画を描いている、または漫画家やイラストレーターを目指しているお子さんの親御さんの中には「今は基本を学ぶために、あえてアナログ(手書き)画材を買い与えている」という方もいらっしゃいます。
結論から言うと、もし懐具合に余力があるならば、早々にデジタル画材を買い与えたほうがいいのかもしれない、というのが個人的な考えです。
そもそも、基礎とは何を指すのか
デジタル画材をあえて買い与えない親御さんが主張する「アナログで基礎を学ぶ」という点についてですが、個人的な考え方としてはアナログだから基礎を学べる、デジタルだから学べないということはないように感じます。
まず、基礎というのが何を指しているのかを考えてみましょう。
たとえば道具の使い方に関してであれば、画材はそれぞれに特性があるわけですから、画材や道具が変われば使い勝手を覚える時間は必要になります。長年アナログだけやっている方がデジタルに移行するときは、操作に苦労したり、やっぱり無理だからとデジタルは触らないという方もいます。
基礎とは何かという話は、たとえば人体の構造とか、パースなどの美術の基礎とかそういう感じの話になろうかと思います。
これに関してはデジタルなのかアナログなのかという事ではなく、どれだけ描いてきたかが重要になってくるように思います。
特にデッサンやクロッキーなどをどれだけやってきたか、というところに尽きるような印象です(私は高校の授業でちょっとやった程度なので、やっておけばよかったなと痛感します・・・)。
ただし、これらはトレーニングであると考えたほうがいいかもしれません。精密な鉛筆画や独特の絵柄がバスったイラスト(ネットスラング的に画伯と呼ばれる)を除き、鉛筆画が完成品と認められるケースは少ないためです。
また、トレーニングという観点から言えば、正式なデッサンにこだわる必要はなく、ボールペンでもなんでも手元にある筆記用具と紙に、身の回りにあるものを見たとおり描き移す練習を行えばいいのです。もちろん、ペンタブや液タブでするのもアリだと思います。
ちなみに教科書の隅の落書きも、基礎力をあげる訓練につながると私は思います。著者や偉人の顔に落書きをするのは失礼かもしれませんが、センスが良いものは褒めてあげるのも良いと思います。褒めることは大事です。
あと、原稿用紙の使い方やタチキリ、印刷時の色味の違い(蛍光色やCMYK、RGBの違い)違いは、基礎的な知識として知っておく必要があります。
トレース(トレス)と模写の有効性
デジタル画材は便利すぎて、基礎的な技術があがらないと考える人は少なくないようですが、実際どうでしょうか。
やり直しが効く、手振れ補正で綺麗な線が描ける、3Dモデルをトレースできる、綺麗なグラデーションを塗れる、などなど数え切れないほどの便利ツールがあります。これらを駆使すれば、当然綺麗な絵を描けるはず・・・。
しかし実際はそんな事はありません。
冒頭にお話した「基礎」が関係してくると思います。
たとえば、手や全身の構図は3Dモデルをトレースすれば簡単にできると考えがちですが、3Dモデルに思い描いたポーズを取らせて構図を作るのも、慣れないと意外と難しいです。裸の人形なので、髪も服もなくイメージすることが難しいのです。
また、3Dモデルにキャラクターの顔を当てはめて描くことも、それなりの技術が必要なのです。体はしっかり描けているのに、福笑いのような顔になってしまっていたら、非常にアンバランスな絵に仕上がってしまいますよね。
既存のイラストをトレースすることに関しては、「意味を考えながら描く」のであれば、良いトレーニングになると思います。
たとえば既存のイラストや3Dモデルをトレースする場合、それぞれの関節の位置に〇を描いて位置関係を覚えるとか、服のシワの意味を考えるなどしてトレースするならば、大変有意義な知識が得られます。
ただし、何も考えずになぞるだけでは、なぞるのが上手になるだけなので、早々に別のことをするよう促したほうが良いかもしれません。
また、「模写をせよ」と主張する人もいますが、模写ばかりしていると模写が上手くなるだけで、トレースと同じく、思い描いたイラストを描く能力は培いにくいので注意が必要です。キャラクターを描くのが上手い人気者的な存在でありたいなら、模写を極めるのもアリです。
絵を描く時間が10時間あったら、模写に充てる時間は1時間くらいでいいと思います。模写=デッサンに近いことなので、多少はやったほうがいいという印象です。
ちなみにトレース(最近はトレスと言うようですが)は製図の意味もあり、工業高校ではトレース検定というものもある立派な技術ですので、トレース=悪と決めつけるのは良くないです。
私も背景を描く時によくトレースしますが、写真からパースを起こしてみたり、写真ではわかりづらい部分は自分で予測、判断しながら描く必要があります。トレースだからカンタンで楽、というわけではないのです。
基礎力を上げるには
漫画やイラストに関する基礎力を鍛えるには、とにかく描くことが大事なのですが、ただ描くだけで技量が上がるわけでもないです。ダイエットとかトレーニングでも、効率良い方法というものはあるものです。
たとえば
・関節の位置関係を意識しながら、手や人体を描く
・裸(リアルな裸ではなく、デッサン人形のような簡素なもので良い)から描き、服を着せる
・パースとは何かを理解する
・文具や家具、靴、服、身近な人物を見ながら、デッサンやクロッキー的なものをやってみる
という具合です。これらはアナログであろうがデジタルであろうが、共通して必要な要素でもあります。
たとえばデジタル画材には「パース定規」というとても便利なツールがあるのですが、パースの意味を理解していなければ、いびつな奥行きの絵になってしまいます。
一方、アナログ絵でしっかりとしたパースを取ろうとすると、製図台のような大きなスペースが必要になってしまうこともあります。デジタルは便利なツールなのです。
なお、これらの参考書としてイラスト関連の教本が1冊手元にあると便利です。だいたい2000円前後です。
ネットでも調べられるのですが、必要なところに付箋紙を付けたりして、手元においてすぐに調べられるようにしておくと、検索する手間が省けます。
デジタルの弱点
私は子供がイラストや漫画を描くことに興味を持っているならば、デジタル画材を早くから買い与えることを推奨していますが、もちろんデジタルにも弱点があります。
停電になれば使えません。また、操作が多いので、漫画原稿などに至ってはアナログのほうが素早く原稿を仕上げられるケースが多いそうです。
パソコンやタブレットPCを使用する場合、動画やネットサーフィン、ゲームなど別のことに時間を取られがちで、絵に集中できないこともあります。
あとの問題としては初期投資があります。
初期投資と運用コストについて
また、初期投資の問題もあります。デジタルだとパソコンやタブレットPCなどの端末、ペンタブ(板タブ)や液晶タブレットなどを買いそろえる必要があります。
しかし、メディバンペイントなどフリーの作画アプリとスマホまたはタブレットPC)、百円ショップで購入できるタッチペンでデジタル作画にトライすることも可能ですので、以前に比べてだいぶ安くエントリーできるようになりました。
画材を買い与えるには、それなりにお金がかかります。
初期投資が高額になりがちなデジタル画材ですが、ではアナログであれば安く済むかというと、そんなことはないように思います。
原稿用紙やペン、影を付けるスクリーントーン、着色用で人気のコピックの購入費用などはなかなかお金がかかります。
特に小学校高学年あたりから、漫画やイラスト好きの同級生の間でコピックが流行り出し、どれだけの色数を持っているかがステイタスになりがちです。
コピックの本数や画材(の価格)で、子供達同士のマウント合戦になってしまうのは避けるべきであると思いますが・・・。
ちなみにアナログ画材は消耗品なので買い足しも必要になり、結果的にアナログの方が高くつくことだってあるかもしれません。
最安の画材を揃える
最も低コストで子供達に画材を与えるならば、鉛筆と消しゴム、コピー用紙の組み合わせではないかと思います。子供は描いては捨ててを繰り返しますので、スケッチブックなど単価が高い用紙に常に描かせる必要はないのです。
それなりの形にきちんと完成させる時だけ、ケント紙(1枚20円くらい)や漫画原稿用紙などの上質な用紙と、つけペンやミリペンなどしっかりとした画材を与えると良いかもしれません。最近は百円ショップにも漫画原稿用紙などが取り扱いされていたりします。
うちでも子供が落書きしたい時にはコピー用紙を、本番の時だけケント紙を与えています。
また、コピックを買いそろえるのがコスト的に難しい方には、アクリラガッシュという絵具がオススメです。乾燥すると色が混ざらないアクリラガッシュは、使い勝手のよい絵の具なのでイラストや風景画を描くときには、たいへん重宝しました。
むしろ学校教育でなぜ色が混ざってしまう水彩絵の具やポスターカラーが主力として使われるのか、いまいちよく理解できてません。情緒教育などの意味もあるのかもしれませんが、水彩絵の具は職人的な技術が必要なように個人的には思います。
私自身の話としては、中高生の時はまさか漫画家になろうとは思っていませんでしたが、子供の時から絵を描くことは好きでした。
貧乏な家庭に育ったので、必要な画材が常に手に入る環境ではありませんでした。それでも親は最低限必要なケント紙と耐水ボールペンは買ってくれました。
そして中3の時に美術の先生から「これを使ってみななさい」といただいたアクリラガッシュ。人に見せられないレベルの漫画を描いて、友達に見せたりして楽しんでいたのです。
子供にアナログ、デジタル画材を与えた結果
私が十分に画材を揃えられなかった反動というわけではないのですが、自分の子供がイラストに興味が出たころあいを見て、サンタさんからということで数年前にコピックの20本セット、おととしのクリスマスにはペンタブを送りました(パソコンは私の予備機です)。
ゲームを期待していた子供からすると、ペンのセットが届いた時は落胆の表情でしたが、プロも使っているペンという事を知ってからは楽しそうに使っています。学校でも絵が好きな友達からコピックをもらったことをうらやましがられたようです。
デジタルでの作画は、つい最近レイヤーの使い分けの便利さを理解したらしく、当記事最初のイラストを仕上げていました。
オリジナルキャラとのことですが、下書きレイヤーに関節などを意識しながら、手もしっかり描き、苦手な服のシワ(私も苦手です)も描き方を調べながら仕上げたとのことです。親ばかではありますが、もちろんかなり褒めました。
きちんと完成させたことを褒めることは、創作意欲につながるのです。
もし親が子供のイラストにアドバイスをするなら、画材やテクニックの事よりも、必ず完成させることに重点を置いたほうが良いように感じます。
描いた本人的に気になるところもあるようですが、気になるところは次回の課題として、またチャレンジすればいいわけです。
次回は逆向きを描いてみてというアドバイスもしました。ちょっとした課題を繰り返すことで、さらに技量は上がっていくものと思います。本人から「背景を描きたい」「パースを知りたい」などの要望があれば、一緒に風景を描きに行くなどもしてみたいですね。
「子供にデジタル画材は必要か」というタイトルでしたが、私の子供は今のところアナログ4デジタル6くらいの割合で、その日の気分でそれぞれの画材で描いて楽しんでいるようです。
子供なりに自分で使いやすいツールを、適材適所で楽しんでいるようです。
このためか、順調すぎるほど、加速的に技量が上がっているように見えます。
もし私がデジタルはダメ、アナログから覚えるべきと制限していたら、こうなっていなかったのではないでしょうか。
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