【コラム】”沖縄怪談”に見る物語作りのヒント
こんにちは。モソです。
昨日オンエアされた琉球放送「オキナワノコワイハナシ2017」と、先月オンエアされた沖縄テレビ「琉球トラウマナイトレジェンド」を見ての感想や雑感などをつづってみます。
漫画を執筆するうえで物語作りが重要になりますが、そのヒントがあった気がします。
多少ネタバレになる部分がありますので、再放送やDVDを楽しみにされている方は読まれないことをお勧めいたします。
怪談天国(?)沖縄
沖縄は元々、土地の神々や精霊、先祖を敬う土地柄です。
そのため沖縄各地に怪談が存在しています。
那覇市内だけでも「真嘉比道の逆立ち幽霊」「七つ墓の飴買い幽霊」「仲西ヘーイ」「耳切坊主」などの怪談が存在しています。まだまだありますけどね。
また、キジムナーに代表されるマジムン(魔物)と呼ばれる妖怪も各地に存在しています。
他の地域にもあることではありますが、心霊スポットや新しい怪談に事欠かない地域でもあります。
オキナワノコワイハナシと琉球トラウマナイト
「オキナワノコワイハナシ」は2004年から琉球放送(RBC)でオンエアされている怪談番組です。
沖縄のお盆は旧暦で行われますが、毎年旧盆の時期に放送される人気のローカル番組です。
これに対し「琉球トラウマナイト」はローカルの映像作家ら(PROJECT9)が「今までの沖縄的ルールを破った映像作品を作りたい」と製作をはじめ、2016年夏より沖縄テレビ(OTV)で放送されている番組とのことです。
ともに地元に伝わる怪談、またはオリジナル怪談として3本立てのドラマとして放送されています。
”沖縄的ルール”の存在と変貌
以前、沖縄のクリエイターが集まったエンターテイメント産業のシンポジウムが開催されました。
このシンポジウム中、OTV、RBCの役職に付く方が沖縄の映像作品などについてトークを行っていましたが
・(沖縄の歴史を鑑み)武力をもって制しない。諭す。
・スプラッターを描かない。
・霊的なものを恐怖の対象として描かない。
という独自ルールの存在について説明がなされました。
後のディスカッションにおいて、私はこの事について疑問を投げかけましたが、このような規制があるうえで果たして怪談は成立するのでしょうか…
視聴者は何を求めているのか
オキナワノコワイハナシは年々「何これ?怖いの?」「ギャグかな?」と思われるようなコワクナイハナシになりつつあり、残念な時期もありました。
一方で「沖縄の放送業界では描けないとされるスプラッター作品を沖縄で製作したい。」と劇場などで作品を上映していたproject9の琉球トラウマナイトが放送されるようになり、2つのローカル怪談ドラマが競争する形になりました。
今年の琉球トラウマナイトでは「霊的なものを恐怖の対象として描かない」を、オキナワノコワイハナシでは、「スプラッターを描かない」という沖縄ローカルルールに切り込んでおり、より怪談らしい恐い話に仕上がったのだと思います。
ツイッター上でも「クオリティーが上がった」など評価する声があります。おそらくローカルルールに踏み込んだことが、視聴者が求める”怪談”にマッチしていた結果ではないかと考えています。
ローカルルールに切り込んだことがとてもすごいことですが、諸事情により来年からまた規制が入ってしまう・・・ということがないようにしてほしいですね。ローカルルールにこだわっているのは業界関係者の一部の人だけで、多くの視聴者(ユーザー)は「純粋に恐い話を期待」しているのではないか、と思うのですけどね。
もちろんこれ以上恐くなったら困る、という人もいるかもしれませんが、怪談を求める人にとっては、恐怖感は大事な要素なのですから。
人気演目「逆立ち幽霊」に見る”ウケる要素”
怪談においては「恐怖感」も大事ですが、それ以外に受けていた要素を持ち合わせた真嘉比道の「逆立ち幽霊」という話があります。
沖縄ではテレビが普及する以前、そして今も文化的に「沖縄芝居(ウチナーシバイ)」という大衆演劇があり、その人気演目として公演されていました。
ざっくりとした物語は
・美しい妻と嫉妬深い夫の夫婦がいた。
・夫が嫉妬しないよう妻は鼻をそぎ落とす。
・夫は浮気し、妻は嫉妬により体を壊し死亡する(または夫が妻を殺害するというパターンも)。
・妻が幽霊となって出歩かないよう、亡骸の足に釘を打ちつけた。
・逆立ちをしたおぞましい幽霊となって妻が現れる。
・幽霊を退治するため侍が出向く。
・事情を聞いた侍と幽霊が結託し夫を殺害する(復讐の達成)。
四谷怪談のお岩さんと同じ感じなのですが、怪談と復讐劇のミックスなのです。
相手を懲らしめず諭さないといけないという沖縄ローカルルールにおいては、芝居で親しまれた「逆立ち幽霊」はそのまま製作することができません。
たとえば決まった時間に相手を懲らしめる「水戸黄門」「遠山の金さん」、年末の風物詩「忠臣蔵」などの時代劇は一種の復讐劇ですからね。
これからの沖縄作品の”物語”
「(沖縄の歴史を鑑み)武力をもって制しない。諭す。」というルールにより人気演目であり需要のあった、伝統的な怪談「逆立ち幽霊」がそのまま描かれることはなくなってしまいました。
歴史というのは恐らくは廃藩置県(いわゆる琉球処分)から沖縄戦、戦後の米軍統治や基地問題に関する悲しく暗い歴史なのだと考えられますが、怪談に限らず、漫画を含む多くの沖縄作品はこうした歴史に引っ張られる形になっています。
また、近年は尖閣諸島などの緊張もあり、沖縄を舞台にした漫画などの作品も、こうした問題と絡めた内容のものが良くも悪くも増えている印象を受けます。
個人的な見解ですが、意外な展開がある作品は期待できるのですが、着地点が同じでは沖縄作品というだけでネタバレになってしまわないかという不安があるのです。
自由な作品づくりができる環境を
漫画を描いてみたいみなさんや、クリエイター的な仕事をしたいと夢を持っている若い人たちへ伝えたいことなのですが、沖縄ルールに乗ればデビューもわりと早く、早々に活躍するチャンスを得られると思います。業界内の評価を得やすいためです。
ただ、それがユーザーが求めるものなのか?という点は、作品作りのうえで考えていく必要はあります。
作り手が伝えたいこととユーザーが求めることは、必ずしも一致しないのです。
今回はTV番組の怪談をベースにコラムとして紹介しましたが、物語を作るためにはもっと自由で色々な発想もあるはずです。独特の歴史文化、芸能に裏付けられた迫力のある面白い話、トイレにも行けなくなるような怪談、スカっとする話、地元にまつわるいい話が沖縄にはたくさんあるはずなのです。
しまこみでは漫画作品の受付や、漫画を描いてみたい人への助言等を行っていますが、沖縄ローカルルールや「こう描かないといけない」という固定観念にとらわれない自由な作品を募集したいですね。
たとえば沖縄を舞台にした恋愛漫画とか、もっとたくさんあっても良いと思うのですよ。
また、競争できる環境というのは大事だと思います。
今回は「オキナワノコワイハナシ」「琉球トラウマナイト」の2作品が競争することで良い結果が生まれたのではないかと思いますし、沖縄ローカル漫画作品の世界にも同様な競争原理が働くことを期待しています。
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